「機能安全」とは何か

IEC61508が対象としている「機能安全」とは耳慣れない言葉である。もともと"Functional Safety"という外来語の直訳なので仕方ないが、その意味するところは何なのであろうか。

機能安全の意味を理解するには、その反対語である「固有安全(inherent safety)」について考えると解り易い。

例えば、交差点での自動車の出会い頭の衝突事故を減らすためには、交差点を立体交差にすればいい。また、鉄道の踏切傷害事故を無くすためには、線路を高架にすれば踏切自体なくなって事故は起こらなくなる。火事の延焼を防ぐには防火壁を、回転体への巻き込まれを防ぐには回転体に近づけないように防護柵を設置すればいい。このように、リスク源を排除または隔離し、リスク自身を起こらないようにして得られる安全を「固有安全」と呼ぶ。ただし、立体交差にすることで新たに生み出されるリスクも現実には存在するが。

リスクの大きさとは、その発生頻度と発生した場合の危害の程度の組み合わせで計られる。ほどんど発生しないが、一度起こると人命に関わるような甚大な被害を起こすものは、やはりリスクが高いものとみなされる。

上の例で言えば、自動車の衝突事故は無くせないが、シートベルトやエラーバックなどで危害の程度を低減させたり、車間距離警報装置を設けて発生頻度を低減させてリスク回避する方法も考えられる。この場合のように、「それぞれの危険源は以前存在するが、安全装置の機能によるリスク低減によって達成される安全」が「機能安全」と呼ばれるものである。