2015年3月30日朝日新聞「「問い続ける」宝塚線事故裁判(下)」

JR西日本のHPで公開されている安全考動計画2017では、これまでの「安全基本計画」を踏まえ、「安全・安定輸送を実現するための弛まぬ努力」「リスクアセスメントのレベルアップ」「安全意識の向上と人命最優先の考動」「安全投資」に重点的に取り組み、具体的数値目標の達成をめざす、となっています。

これからも、「安全」とは絶えず努力して「安全」の状態を保とうとするものであるが、永久に「絶対安全」にはたどり着けない「いばらの道」であることが垣間見えます。

「危ない時は止める」教訓生かす

異例の対応だった。

近づく台風に備え、JR西日本は昨年10月12日、近畿6府県の在来線のほぼ全線で翌13日夕からの運転をほぼ取りやめることを決めた。

翌13日。京阪神地区の在来線24線区を走る全列車・計約1200本が方針通り運休となった。この日は祝日にあたり、いつもならJR大阪駅は親子連れや観光客で込み合う夕刻。だが、立ち入りを禁じる柵が設けられ、人影は消えた。

「『危ない時は止める』と考えることができる流れになった。宝塚線事故の教訓です」。JR西の幹部は振り返る。市民団体が実施したアンケートでも、近畿圏に住む人たちの7割が対応を評価した。

安全より、利益を優先してきた会社―。10年前の脱線当時、そうした批判を受けた会社とは異なる姿があった。


強制起訴された歴代社長3人の裁判では、JR西の安全のあり方をめぐる証言や資料が明るみに出た。

「事故が起これば、責任は厳しく追及する」。1992年10月に本社で開かれた総合安全対策委員会の議事録には、社長だった井手正敬・元会長(79)の発言が記されていた。遺族らには「事故を安全対策に生かすという姿勢が欠けていたことの表れではないか」と受け止める人もいた。

27日の大阪高裁判決も一審と同様に無罪だった。検察官役の指定弁護士を務める河瀬真弁護士(44)は言う。「経営効率を高めるため、安全対策をおざなりにしてきたJR西日本の姿をある程度明らかにできたと思いたい」

事故後の捜査と裁判の進展に歩調を合わせるかのように、JR西は安全対策への投資を拡大。10年間で9323億円を投じた。現場カーブにつけていれば事故は防げたとされる自動列車停止装置(ATS)も、2012年までに京阪神の路線のほぼ全域を網羅した。


リスクアセスメント。危険性(リスク)の芽を未然に摘むため、JR西が取り組む安全対策だ。歴代社長3人の一審の公判で元運転士は「事故が起きた急カーブは危ないと感じていた」と証言した。たが、SOSは社内で共有されなかった。理由について元運転士は「ATSをつけてもらわないとだめだと思ったが、個人の意見を言うと(自分に)不利益になると思った」と語った。

リスクアセスメントのもとで毎年3万件前後の報告が寄せられ、13年度までにホームと列車の段差をなくしたり、標識を見やすい位置に置き換えたりするなど1500件以上の対策がとれらた。

それでも、事故はなくならない。先月には岡山県倉敷市内の山陽線の踏切で電車とトラックが衝突し、18人が負傷した。踏切の異常を知らせる発光機は点滅していたが、運転士の非常ブレーキ操作が遅れていた。

「(問題を)100%洗い出せてはいない」と真鍋精志社長(61)は認める。

死者107人、負傷者562人、未曽有の大事故の教訓を生かす取り組みに、終わりはない。