第151回テーマ:ダーク・ドルドラムズ

VREの低出力事業

風力や太陽光発電といった変動性再生可能エネルギー(VRE)設備の設置が世界的に急拡大している。その結果、電力システムはこれまで以上に気象や気候の変動に左右されるようになると考えられる。このような電力システムの転換の中で、近年、「dark  doldrums(ダーク・ドルドラムズ=無光無風)」や「wind drought(渇風=長期無風)」といった新しいタイプの異常気象が問題になっている。これらの現象は風力・太陽光の低出力状態を引き起こすため、VRE導入率が高い電力システムにおいて電力料金の異常な高騰やエネルギー供給の途絶を引き起こすおそれがある。場合によっては蓄電池の大量導入や無光無風状態の発生予測といった対策が必要となる。

2. 発生要因

日本では、夏季の停滞前線や、ヤマセや冬季の南岸低気圧の来襲時に無光無風状態となる傾向がある。一方、欧州ではVRE低出力は高気圧場が停滞する際に発生する傾向があるということが指摘されている。実際、2021年の夏から秋にかけて、欧州(特に英国、デンマークアイルランドなど欧州北部)では、北太平洋域がブロッキング高気圧に覆われたことにより、長期間低風速状態になり、風力発電の発電電力量が大幅に減少した。これは発電用燃料としての天然ガス需要の急増を招き、電力料金と天然ガス価格の上昇につながったと報じられている。このように、VRE導入比率の高い欧州においては、長期の低出力事象がすでに電力システムの運用における重大な懸念事項になっていると考えられる。

3. 気候変動の影響

気候変動の影響や電力システム転換に伴うレジリエンスの低下は、世界共通の懸念事項となっている。前述のように2021年の欧州の無風は、自然変動(気候の年々変動)の影響が大きいと考えられる。さらに長期の視点では気候変動(地球温暖化)による影響も重要である。2021年に発刊された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書によると、全球平均気温の上昇が大規模な東西の循環の弱化につながり、日本・欧州を含む中高緯度域の風力発電の発電電力量の低下につながると予測されている。