国家の品格/藤原 正彦

近年、先進国に広がる荒廃ぶり(核問題、環境破壊、犯罪やテロ、家庭や教育の崩壊)は、西欧的な論理・合理精神の破綻によるものであり、人間社会では「論理」を徹底しても問題解決には至らない。国民は永遠に成熟しないため、「論理」を放っておくと民主主義すなわち主権在民が戦争を起こすことにもなる。

その一つの解決方法として、本当に重要な価値観=「情緒」は幼いころから押し付けるべきであり、それを育むための行動規範、道徳=「形」として「武士道精神」を復活すべきである。

ここで、「情緒」とは自然への繊細な感受性、自然に跪く心、もののあわれ、懐かしさに基づく家族愛・祖国愛、「形」とは慈愛、誠実、忍耐、正義、勇気、惻隠(他人の不幸への敏感さ)、名誉、恥、卑怯を憎む心であり、日本が古来より持つ「品格」であった。

この美しい情緒や形には世界に通用する普遍性があり、日本はこの「神聖なる使命」を取り戻し、世界へ発信していく必要がある。

【評価】
★★★★☆

【感想】
2006年度ベストセラー本。数学者である筆者の講演記録をもとにした軽快な日本論が、小難しい理論やロジックも必要なく心地よい。

捉え方によっては、古きよき時代を懐かしんでいるだけの感もあるが、非合理的に思われる古い価値観にも真理があるとよどみなく言ってもらえると、ある年代以上の日本人には腑に落ちる安心感があるのだろう(欧米人には、到底理解出来ないだろうが)。

私は、何事にもメリット・デメリットがあり、それぞれの間で行き過ぎがあれば自然と振り戻す振り子のような「バランス感覚」が重要だと思う。その担い手に「武士道」を持ち出した目の付け所が面白い。

ただ、国家の品格を取り戻して「世界を救うのは日本人だ」と締め括られると、ちょっとまゆつばものか。

【お気に入り】
公立小学校で英語など教え始めたら、日本から国際人がいなくなります。(中略)国際的に通用する人間になるには、まずは国語を徹底的に固めなければダメです。(中略)そして内容を豊富にするには、きちんと国語を勉強すること、とりわけ本を読むことが不可欠なのです。(p.39-40)

人を殺していけないのは、「駄目だから駄目」ということに尽きます。「以上、終わり」です。論理ではありません。(p.47)

【目次】
はじめに
第1章 近代合理精神の限界
第2章 「論理」だけでは世界が破綻する
第3章 自由、平等、民主主義を疑う
第4章 「情緒」と「形」の国、日本
第5章 「武士道精神」の復活を
第6章 なぜ「情緒と形」が大事なのか
第7章 国家の品格