アメリカ以後〜取り残される日本/田中宇

9.11テロ事件を契機に、アメリカは世界支配の方法を経済から軍事に政策転換し、でっち上げの理由でイラクを先制攻撃して単独で戦争を始めるに至った。

その影で、アメリカはわざと9.11の発生を防がなかった可能性が指摘されており、その裏には、外交や経済を重視して強調主義を主張する「中道派」と、軍事中心の単独覇権主義を主張するネオコンに代表される「タカ派」の対立の問題があった。9.11は双方に都合がよかったのである。

テロ対抗のために晴れて実権を握った「タカ派」は、単独覇権主義を実現するために膨大な費用を使って軍拡をはかり、その後ろ盾であるイスラエル国益ばかりに気を使ってEUや国連とは強調関係を拒否する政策を取った。しかし、イラクが泥沼化してアメリカの弱体化が進むにつれて、政治腐敗、双子の赤字によるドル安、人権侵害などの諸問題が露呈し、批判が高まっている。

一方で、「タカ派」を利用してアメリカを弱体化させることで、アメリカ・EU・中国を中心とするアジア諸国という三つのパワーバランスで世界を安定化させようとする「中道派」が勢力を巻き返してきており、絶対的な存在であったアメリカのいない「アメリカ以後」の世界を模索する動きが、すでに始まっている。

【評価】
★★★☆☆

【感想】
筆者は、共同通信社を経てマイクロソフトで「MSNジャーナル」を立ち上げ、現在は個人で国際ニュース解説をメルマガ配信している。配信者数は20万人を超え、私もその1人であり愛読者であったので、今回この本を手に取った。

筆者の情報収集力とその分析力は並々ならぬものが感じられ、国際事情に疎い私をはじめとした日本人には貴重な存在であり、本書を通じて世界で何が起こっているのかが、平和ボケした私にも分かり易く解説されている。

程度の低いメディアの垂れ流しで固定観念化した自身の頭をニュートラルにするために、読んでおいて損はない一冊だと思う。

ただし、やはり「アメリカはわざと9.11の発生を防がなかった」と、周辺情報からの推論だけで論理構築するには無理があると思うが、真相は一生分からないだろう。

【お気に入り】
なし

【目次】
第1章 「アメリカ以後」を考えるアメリカ 
第2章 経済ではもう世界は動かせない
 1 「ものづくり」を忘れた国
 2 復活する「ブードゥー経済学」
 3 新しい経済モデル「タクシノミクス」
第3章 誰のための戦時体制
 1 「人権の国」の人権侵害
 2 制限される民主主義
第4章 歴史の中のイラク戦争
 1 ネオコンの系譜
 2 泥沼化の理由
 3 孤立する前線
第5章 「三極体制」でアジアはどうなる
 1 アメリカ抜きアジア
 2 歴史から消える単独覇権主義
あとがき