日本電産 永守イズムの挑戦/日本経済新聞社編

日本電産の社長で、瀕死の企業を人を切らずに見事に再建してしまう手腕で有名な永守重信氏の経営哲学の書。

日本を代表する経営者の一人に数えられる氏が手掛けた23番目のM&Aの舞台裏を、当事者の息づかいが伝わるほどの臨場感で紙上再現した第1部、その経営哲学の源流を生い立ち〜創業時のエピソードで探る第2、3部、および人間・永守重信を紹介する第4部で構成されている。

三協精機M&Aにまつわるドキュメントでは、一日も早く出血(赤字の垂れ流し)を止めるために以下の施策を矢継ぎ早に実行し、まるでドラマのように見事に企業再生させてしまう手腕に圧倒された。それらはまるでミステリー小説を読んでいるかのような鮮やかさがあり、様々な職種の企業人に大いに参考になるものである。

労働生産性の低さ、総労働時間の短さ
永守流経営改革の真髄として、3Q6S(「Quality Worker」「Quality Company」「Quality Products」の3つQの目標を実現するために整理・整頓・清潔・清掃・作法・躾の6つのSを実行する)の徹底と出勤率の向上で社員の意識改革を行うと同時に、3Q6Sに連動するように業務回復を実現

�設備コスト、仕入れコストの高さ
「絶対原価」を共通語として、トップを含めたネゴの徹底、日本電産グループの取引先への切替、過剰スペックの排除と部品や材料の共通化でコストダウンを実現

�経費の高さ
「1円以上の支出はトップ決済またはCEO決済」ルールを徹底し、売上1億円当たり経費500万円以下を実現

氏の赤字は罪悪という意識と、絶対に人は切らない信念からくる「出来るまでやり抜く執念」が強く感じられ、古臭いが時代を超えて伝えて行きたい「リーダー像」が生き生きと描かれている良書である。

【評価】
★★★★☆

【感想】
M&Aを巡って、各ステップで氏が何を考え、どう決断したのかを読み解くにつれ、そのプロセスは私の仕事にも参考になるものであり、その執念にも似た熱意には大いに刺激を受けた。

読み終えた後は、クロネコヤマト小倉昌男氏の「経営学」を読んだときのように、尊敬出来る人にめぐり会えた喜びを感じることが出来、一気に「永守ファン」になってしまった。

また、氏の「執念」を目の当たりにして自身を振り返ってみると、私は社会人になって10年経ったが、最近は「上司が…」「会社が…」と言い訳(グチ)ばかり一人前になっていたのに反省しきりである。周囲に遠慮して「なあなあ」にしてしまわない氏が、(よい意味で)大人だなぁと思わせるが、そういう人が最近減ってきたなぁと、隔世の感に浸るのは飛躍しすぎ?

ただ、3Q6S活動が業績回復に連動するのはマジックのようにも感じられるものの、そこは何か本質があるのだろうか?誰か教えて!(私の会社は、資料がうずたかく積みあがっている人が多いので、少し不安!?)

【お気に入り】
それ(労働時間の延長)は時間の問題でもなんでもないんです。要は踏み絵なんです。(中略)月給を10%カットするか10%労働時間を伸ばすかという話なんです。(中略)私は、時間は伸ばして人は切らんよという方式をとっているわけです。200時間伸ばした分だけ労働時間が長くなる。残業代がつく時間が、今までだったら五時半からだったものが、六時半になる。残業手当も減る。しかしトータルの月給は一切カットしませんよという方式です。賃金には触らずに、単位時間当たりの単価をさげるということをやったんです。(p.101)

人の気持ちとか人の心を引くというのは、理想だけじゃだめなんです。(中略)やっぱりこの人についてったら飯が食えるんじゃないかとかが必要やね。私の家内も見合いしたときに、『この人だったら飯を食べさせてくれるんじゃないか』と思ったらしい。(p.128)

モーターの製造・開発・販売をしています。日本電産ですってやるけど、そんなのだれも知らない。実績も信用もない。あるのは一日24時間という時間と、お客さんがモーターを使っているという現実がある。これが我々の原点でした。(p.170)

(中略)こういうなかで、日本電産の「三大精神」と言われ、ニデックマンの行動哲学になっているものが生み出されていった。
・情熱・熱意・執念
・知的ハードワーキング
・すぐやる、必ずやる、出来るまでやる
である。
(p.174)

【目次】
第1部 ドキュメント 三協精機製作所再建
1 胎動/2 三協精機への迷走/3 深刻化する危機/4 打診/5 始動/6 トップ会談/7 仕掛け人/8 買収交渉/9 光明/10 決断/11 記者会見/12 短期決戦/13 始動/14 激震/15 本丸/16 発信/17 踏み絵/18 3Q6S―永守流意識改革への真髄
第2部 永守イズムの源流
1 母親の教え/2 人生を決めた出来事/3 職業訓練大学校/4 就職/5 子分/6 独立への助走/7 創業
第3部 永守流経営のエキス
1 採用の苦労/2 三つの不渡り/3 3Q6S事始め/4 米3M/5 はじめてのM&A/6 国内M&A第一号/7 「永守流」象徴する信濃特機のM&A
第4部 素顔の永守重信
1 人間・永守重信/2 ロングインタビュー―永守重信氏が語る日本電産の将来像
永守重信語録