裸でも生きる〜25歳女性起業家の号泣戦記〜/山口絵理子

23歳で、ジュート(麻)を使ったバッグを現地生産、輸入販売する「�マザーハウス」を設立し、社長業の傍ら講演に飛び回る著者のエッセイ本。

小学校でイジメにあった反動で中学では非行に走るが、その後ふざけ半分で入部した柔道部で負けず嫌いの性分が目覚め、高校ではあえて名門「男子柔道部」に自ら飛び込んで日本のトップクラスにまでなる。

高校卒業を前に、幼少時代の経験から「政治家になって日本の教育を変えたい」と一念発起して慶応大学をめざして猛勉強ののち見事合格。そこで「開発学」の存在を知ってのめり込んでいくものの、理論と現実のあまりの違いに違和感を感じ、あえて「アジア最貧国」であるバングラディッシュに向かう。

そこで見たものは、自分の利権のために罪のない人々を殺す政治家、当然のように横行する賄賂、大学院を卒業しても就職先がなくてリキシャ引きになる学生、その日を生きるために生きている人達…。そんな将来への希望も可能性も見出せない国で、必要なのは「施し」ではなく先進国と対等な経済活動だという理念を持ち、起業を思い立つ。

ビジネスに奔走する中で、いろいろな苦難に直面しながらも必死に走り続ける。信頼していた現地スタッフの裏切り。単に善意で買ってもらっていた事に甘えていた自分。バッグについての知識、経験不足。いっぱい泣いたけど、その度に彼女はまた強くなり、また前に歩き出す。

【評価】
★★★★☆

【感想】
「頑張れば頑張っただけ報われる」
その一念で、不器用なまでにひたすら真っ直ぐに進もうとして挫折、苦難を味わいながらも、また一歩前に踏み出していく勇気に感動を覚えた。もう少し上手く立ち回れば、もっと要領よく出来たのかもしれないが、それは「ビジネスでは理論が通用する」と思っている頭デッカチな人の外野の野次でしかない。やはり、実践で結果を出している人は、尊敬に値する。

彼女の強さは、「成功するまで諦めない」ところからくるのだろうと思う。今の「幼児化した大人」には甘えの気持ちが多分に目立つが、彼女には成功する人に共通する「生命力」を感じた。

一方で、私はこの本を読んだ後にある種の「切なさ」も感じた。それは、自分にいつも言い訳ばかりして中途半端に生きてきた後悔の念と、自分の心に素直に生きる彼女を羨ましくも思う気持ちある証拠だろう。彼女は以下の言葉で本書を締めくくっている。貴方ならなんと答えますか?
「君はなんでそんなに幸せな環境にいるのに、やりたいことをやらないんだ?」

【お気に入り】
ここで生きて変えることが出来ますように、と思いながら足はガクガク、目からはとめどなく涙。そして1時間、椅子に座っていることが出来た。
次の日、2時間座る。
次の日、3時間座る。
私は、徐々に学校にいられるようになった。

(中略)
少しずつ学校に行けるようになり、いじめを克服したこの経験で、
(ちょっとずつでも頑張れば、絶対に思ったとおりのことを実現できるんだ)
と知った。
(p.15)

そして次の日も、また次の日も、私はたくさんのものを見て、たくさんのことを考えて、いま目の前に広がっている世界に対して、自分の存在って何だろうって、ずっとずっと考えていた。
いつもぶち当たるのは同じ質問。
(私は何のために生まれていたのかな…)
(p.80)

日本という恵まれた国に生まれ、最低限以上のものを与えられ、生きてきた。
そんな私が、「貧しい人のために」なんて思っていたことが、なんて浅はかで、傲慢で、無知な思いだったんだろう、と強烈に感じた。
(p.111)

結局、違う世界に私たちは生きているんだ。日本とバングラディッシュの間にあるものは、経済的な格差だけじゃない。精神的なものや、すべてがきっと同じ人間じゃないんだ。
いいように現地の人たちに騙されている自分がおかしくなって、気がつくと涙を流しながら笑っていた。
人間って、極度の悲しみに直面すると、笑っちゃうんだ、ということをこのとき知った。
(p.219)

【目次】
プロローグ/第1章 原点。学校って本当に正しいのか?/第2章 大学で教える理論と現実の矛盾/第3章 アジア最貧国の真実/第4章 はじめての日本人留学生/第5章 途上国発のブランドを創る/第6章 「売る」という新しいハードル/第7章 人の気持ちに甘えていた/第8章 裏切りの先に見えたもの/第9章 本当のはじまり/エピローグ 裸でも生きる