知識創造とイノベーション(その1)~場をつくる

【出典】野中郁次郎勝見明イノベーションの本質/日経BP

本書は、人と組織に関するマネジメントの専門誌「Works」(リクルートワークス研究所)の連載「成功の本質」の13回分をまとめ、加筆・再構成したものです。解釈編は「知識創造企業」の著者で有名な野中郁次郎教授が担当されています。それぞれの物語に登場する主人公たちは、家に帰れば家族との団らんに幸せを感じるような、どこにでもいる名もない人々であり、等身大の「私」とも読み取れます。

個人的には、「経営学」は欧米の輸入品であり、成功事例の最大公約数的な「後付け理論」と認識しており、それぞれの成功事例には、それぞれの時代背景や前後のストーリー、およびそこに生きた人々のリアルな思いが合わさった偶発的なものと思っています。しかし一方で、企業を渡り歩くプロの経営者がいるという事実から、何かしらの普遍性を感じるところもあり、会社の方向性に悩んでいる今では、読み物としては非常に興味深く感じます。その意味では、「経営学」とは組織リーダーのコンサルタント的な役割と捉えればよいのでしょう。

ここでは、自身の思考を整理する上で、本書の内容を備忘録としてメモ書きしています。

物理的な空間だけでなく、特定の時間と空間と他者との関係性を共有するのが『場』です。この関係性のことを文脈(コンテクスト)とも呼びます。創造する力としての知識は、単に個人の内にあるのではなく、いろいろな相互作用を通じて他者と文脈を共有するダイナミックな『場』から生まれます。そのため、『場』は知識創造企業であるための非常に重要でかつ基本的な構成要素になります。

よい『場』とは、固有の意図や方向性や使命を持ち自己組織化されており、多様な背景や視点を持った人たちとそこで感情の共有や共感と信頼に基づく対話を通じて、他者との相互作用の中で自分をより高い次元へと自己超越していくことで、知識が可視化されてくる時空間と言えます。さまざまなところに場が多次元的に形成され、有機的につながれば、優れた知識を総動員することが出来ます。

『場』とは、単に職能別などの形式ベースの組織ではなく、「何をつくりたいか」「何のためにあるのか」という意味ベースに形成される組織です。意味がベースになるため、特定の空間と場所と人との関係性が湧き上がってきて、『場』が人も求めるようになる、これが開かれた『場』のダイナミズムです。

職能別の縦割りリーダーとプロジェクト別の横串リーダーが存在するマトリックス組織も、『場』を形成させる仕組みと言えます。組織表を90度回転させれば、それぞれの参加者が一つの文脈を共有する意味ベースの組織となります。形式ベースの組織ばかりとなると、企業の硬直化が進みます。経営破綻した企業にはその傾向が顕著に見られます。このとき、再生という思いを共有した横串通し的な意味ベースの組織が生まれ、それが常態化してトップがコントロールしなくても動くようになって一つの型として定着すれば、企業は再生します。