原発を考える(その1)~廃炉の時代

【出典】朝日新聞GLOBE 2013年7月21日版

3.11以降、「原発」は世界全体を巻き込んだ論点の一つとなった。原発をめぐっては、政治、経済、社会、環境、技術、医療、倫理、国防など、様々な立場で様々な議論が今も巻き起こっている。しかし、原子炉には必ず寿命があるので、今後は「脱原発」にかじを切るとしても今ある原発をどう安全に管理し、解体するのかという問題は避けられない。「廃炉の時代」は、我々が必ず迎える「すでに起こった未来」であり、予想以上の速さで目の前に訪れようとしている現実なのだ。

ここでは、そのきっかけとして、朝日新聞GLOBEの特集から有識者の意見を以下に転記する。なぜこの2件を編集者が取り上げたのかを考えただけでも、書き手のスタンスが見え隠れして興味深い。

「ノウハウもつ企業の活用を

The Rt Hon Lord Hutton of Furness/ブレア政権とブラウン政権で労働・年金相、ビジネス・企業・規制改革相、国防相を歴任し、10年より貴族院議員、11年より英国原子力産業協会会長

英国は世界で初めて商業用原発を動かしただけに、廃炉に向けた明確な戦略も早めにつくる必要があった。現在の戦略ができて10年近くたったいま、成果が出始めている。廃炉サプライチェーンを築くことができた。専門技術をもつ企業も増えた。

これは単に経済的な面から好ましいだけではない。原子力に対する市民の理解を広げるうえでも有益だ。

原子力産業にとって、「公開」と「透明性」は最も大切な要素となる。当局に対して透明であるだけでなく、市民にとっても透明でないといけない。原子力は、世論の支持が欠かせないのだ。福島第一原発の事故は、世論の支持の大切さを私たちに改めて教えてくれた。

いまや国家が人々を導くような時代ではない。何をしようとしているのか、政府や原子力産業は国民に説明し、その是非を問わねばならない。

廃炉ビジネスの市場はすでに大きく、いまも成長している。世界中で運転されている何百もの原発は、いずれは寿命を迎える。多くの廃炉が待っている。非常に複雑であり、挑戦のしがいがあり、グローバル化された市場といえるだろう。

もちろん、どの国でも原子力は国家の縛りを強く受けており、廃炉においても、その国々の企業が尊重されるのは当然だ。ただ、より安全に廃炉を進められるかが企業に問われる。英国の企業は最も豊かな経験を蓄えており、得られた課題に対する解決策を持っている。

英国の企業にとって、日本との関係は重要だ。日本の市場は決して閉鎖的ではなく、すでに福島第一原発を含めた多くの現場に各種の英国企業がかかわっている。彼らの活動は、日本にとっても大きな助けとなっていくだろう。

結局、英国企業の押売りだが、逆に言うと限られたパイを世界中の企業が虎視眈々と狙っているということ。「弱みに付け込んで…」とか言ってる場合じゃなく、言いも悪いもこれが現実。

「みんなでプロセスを考えよう」

Kjersti Album/ノルウェー最大規模の環境NGO「地球の友ノルウェー」の廃炉及び対ロシアのプロジェクト・マネジャー

ノルウェー政府の援助を受けながら、隣国ロシアを含めた旧ソ連原発廃炉支援に2004年から取り組んでいる。ロシアでは寿命を迎えた原子力施設が少なくないが、具体的な廃炉計画が立てられず、議論も調査もされていない。今後どうなるか、まったく不透明だ。

原発側は「我々に任せてほしい」という。だが、原発廃炉は単なる技術の問題にとどまらない。その廃炉は環境的、経済的、社会的な視点から検討すべき極めて複雑なプロセスだ。将来にどれだけの負担を残すのかが問われるので、倫理的な問題でもある。

旧ソ連では、単一の企業に地域の経済が依存している経済城下町が少なくなかった。工場が操業をやめると町が崩壊してしまう。原発のある街もまさにそうで、どのように廃炉にもっていくのかは、町のありようと深く結びついている。日本でも同じような面があるのではないか。

廃炉のプロセスは、原発を運転する人々だけでなく、市民や地域社会、政治家ら広範囲の人々が加わってオープンに話し合うべきだ。

たとえば、廃炉のスケジュールについても、原発の運営者が勝手に決める問題ではない。原発側の都合で「従業員の皆さん、次回は50年後に出社して作業してください」とは言えないだろう。原子炉をどれだけの期間にわたって安全貯蔵するかは、単に作業上の問題ではなく、地元社会に直結する問題だ。

地元に対しても、原発側が一方的な説明会を開くだけでは不十分だ。地元が積極的に廃炉に関与することは、より効率的は廃炉のスケジュールをつくることにもつながるだろう。

自動車産業の象徴だった米デトロイト市の財政破綻も、他人事ではない。デトロイトは治安の悪化に歯止めがかからず人口が流出、公共サービスが維持できず警察を呼んでも一時間も来ない、そんな町はまさにゴーストタウン。原発城下町も同じ衰退のシナリオを踏んでしまうのか。