原発を考える(その2)~廃炉の時代(2)

【出典】朝日新聞 2013年11月3日版

「Under control」、安倍首相が五輪誘致演説で発言した言葉も「偽装」だったのか?

貯水タンクからの汚染水漏洩が止まらない一方で、東電は生き残りをかけて是が非でもドル箱の柏崎刈羽の再起動を進めていくだろう。政府からの責任追求を交わしながらそれを実現させるためには、発電部門と廃炉部門を切り離して責任を明確化することで、発電部門の生き残りを図らないと東電自体が持たない。某局の『朝まで生テレビ』では「Good東電」、「Bad東電」を呼んで切り離しの議論を展開していたが、東電は「完全分社化」ではなく「社内分社」という一番ソフトランディングな形で会社自体が解体されるのを阻止したい考えのようだ。

東電廃炉組織設置へ 社内分社で汚染水対策

東京電力は、福島第一原発廃炉原発部門から切り離し、「社内分社」にする検討に入った。廃炉作業の責任をはっきりさせる。まずは、深刻さを増す汚染水問題を収束させる役目を負う。自民党などから出ている別会社化の議論をかわしたい考えもありそうだ。

年内に見直す総合特別事業計画(再建計画)に盛り込む見通し。東電は、安倍晋三首相の要請に沿う形で5、6号機も対象に加え、福島第一の廃炉を年内に全基に広げる方向。柏崎刈羽原発新潟県)などを抱える原発部門から独立させて「廃炉センター」(仮称)とし、社内分社の中核部門にする。

廃炉センターを指揮する新組織も設け、原子力関連だけでなく、地下水対策やタンク管理などに詳しい人材を土木・火力発電などの部門からも集める。海外でプラント工事の経験がある社外の人材にも加わってもらう考えだ。

自民党の復興加速化本部は10月末、廃炉事業の社内分社▽完全分社▽独立行政法人化――を選択肢とする東電の体制見直し案をまとめた。

東電は、比較的緩やかな「社内分社」での決着をはかりつつ、汚染水対策の体制を見直すことで柏崎刈羽の安全審査を進めたい狙いもあるとみられる。

東電は、一企業としての存続を模索していると思われる。一企業のトップの結論としては当然であり、会社を分社して廃炉部門を「国有化」させるというようなインセンティブが働く訳がない。ただし、本件はもう東電内に止まらず、政府および国民を巻き込んだ議論にならざるを得ないことを東電が自己認識し、過去・現在・未来に責任を果たすためにはどのような体制が一番か、まずは「あるべき論」から議論をスタートして欲しい。

体制見直しに先手 柏崎刈羽の再稼働進展狙う? 東電廃炉組織

東京電力福島第一原発廃炉事業を「社内分社」のもとで進める検討に入ったのは、本格化し始めた東電の経営体制見直し論議に先手を打つ狙いがある。汚染水問題への取り組み姿勢を示し、柏崎刈羽原発新潟県)の再稼働に向けた安全審査を前に進めたい思惑もかいま見える。

廃炉作業で国が前面に立つには、東電との責任分担だけでなく、実施体制の明確化も必要だ」。自民党東日本大震災復興加速化本部(大島理森本部長)は10月31日、原発事故の処理について政府への提言をまとめた。廃炉・汚染水対策では、(1)指揮系統や会計などを発電事業から独立させる社内分社(2)廃炉部門を別会社に切り出す「完全分社」(3)国が主導して廃炉を進める「独立行政法人化」を例示し、体制の見直しを前提とした。

東電が社内分社を選ぼうとするのには、会社がバラバラになる完全分社を避けたい事情がある。廃炉だけの会社では、30~40年かかるとされる作業に携わる人材を確保し続けるのは難しい、というのが理由だ。

広瀬直己社長は31日の記者会見で「福島第一を熟知しているのは東電社員。3万7千人が一丸となって取り組む」と強調した。人材をやりくりすれば、放射線量を管理しての人事を回しやすいからでもある。

東電が経営を成り立たせていく頼みの綱とする柏崎刈羽の再稼働も、社内分社の背景にある。福島第一の汚染水問題が影を落とし、原子力規制委員会による柏崎刈羽の安全審査は、一向に進んでいない。広瀬社長は10月末、規制委の田中俊一委員長に呼ばれ、抜本策を求められた。廃炉と汚染水対策を一手に引き受け、責任が分かりやすくなる社内分社で、理解を得たい考えもあるとみられる。

ただし、今回の分社が「社内」にとどまり続けるとは限らない。東電は、政府が2018~20年をめどに検討する「発送電分離」を先取りし、持ち株会社への移行も検討している。抜本的な経営の見直しとなれば、発電など複数の事業会社と、公的資金を受けて事故処理にあたる会社とに仕分けされる可能性がある。