朝日新聞10月25日「耕論 再生エネルギーの針路」

【出典】朝日新聞 2014年10月25日版

先日、9月24日に九州電力が、30日に北海道電力東北電力四国電力が、再生可能エネルギー発電設備の接続申込みに対する回答をしばらく保留することを公表した。また、同30日に沖縄電力が、再生可能エネルギー発電設備の接続申込みの接続可能量の上限に達したと公表した。

中断の理由については、いずれの電力会社も、計画中の太陽光発電事業をすべて受け入れると管内の電力需要を上回り、電力供給が不安定になることで停電などのトラブルを引き起こす可能性があるため、としているが、その説明は決して正しとは言えない。欧州でそのようなトラブルが起きているとは聞かないし、電力の調達コスト高騰で電気料金値上げに跳ね返ってくることを暗に警戒しているだけだと思うが、制度上の問題もそれに拍車をかけている。

朝日新聞に専門家の意見が掲載されていたので転記した。特に真新しい議論はないが、未来のライフスタイルを見据えた制度設計をお願いしたい。

太陽光、風力、地熱など再生可能エネルギーでつくった電気を電力会社が買い取る制度を「FIT」と呼ぶ。再生エネの導入を狙って2年前に始まったが、電力5社が新規の買い取りを中断した。専門家はこの事態をどう考えるか。

 ■最大限導入と安定、両立の道を 安田陽さん(関西大学准教授)

 固定価格買い取り制度(FIT)による新たな申し込みへの回答を保留した電力会社のいくつかは、国から認定を受けた設備がすべて稼働すれば、電力需要を超えると説明しています。

 再生エネを電力系統(送電網)に大量に受け入れると停電をもたらしかねないという意見もある。2006年の欧州大停電がよく引き合いに出されますが、その原因は送電会社の単純なミスでした。風力が停電拡大に一部拍車をかけた面はありますが、技術的問題ではなく、ルールの統一と義務化が遅れたためでした。

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 <カギは技術革新> 欧州や北米は、再生エネのために電力の安定供給を犠牲にしているわけではありません。安定供給を保ちながら再生エネを最大限導入するために絶えず挑戦し、技術革新を続けています。二つを両立できないというのは、「日本には技術力がない」と世界にアピールするようなものです。

 現在の状況をFITの欠陥のように言う意見もありますが、FITは再生エネを爆発的に入れるための制度で、導入した国では5~10年で10倍以上に増えています。日本は2年間で2倍。決して多くはなく、問題は一部の地域や太陽光に偏っていることです。

 発電コストの高い太陽光だけが増えているのは、世界的には異例です。洋上風力や蓄電池もそうですが、日本では高い設備がもてはやされる。その分負担が大きくなるという説明が、きちんと国民にされているとは思えません。コストの安い陸上風力や地熱などが入らないのは本末転倒です。

 いまの状況を打開するのに即効性があり、最も安上がりなのは太陽光の出力抑制です。太陽が照りすぎて需要を超えそうになった時に、少し発電を抑える。このような時間帯は、工夫すれば年間の数百時間で済み、全体として数%以下に抑えられます。スペインやポルトガルでは、一定規模以上の発電所に双方向の通信設備が義務づけられているので、送電会社からオンラインで出力抑制が可能です。日本も義務づけるべきです。

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 <送電増強議論を> 次に各電力会社を結ぶ連系線(送電線)の利用拡大です。九州と中国間は結構使っていますが、北海道と東北間、東北と東京間には相当の空き容量がある。再生エネに不利なルールを変え、会社間の電力のやり取りを柔軟にすれば、より多く入れられます。

 2013年の日本の太陽光と風力の発電量は、全体の1・5%しかありません。「欧州は送電網が張り巡らされている」と言う人がいますが、他国との連系線が細いスペインや島国のアイルランドでも太陽光と風力の比率は、日本の10倍以上です。大きなお金をかけなくても太陽光や風力は送電網に10~20%受け入れられるというのが、欧米の送電線専門家の見方です。

 太陽光や風力を発電量の20%以上にするには送電線の増強が必要で、数兆円のコストがかかります。ただ、このコストは投資と見るべきで、化石燃料の費用削減や温暖化防止、エネルギー安全保障などの便益もあります。欧州では10年前からやっていることですが、国が送電線の研究を主導して、国民的な議論をする必要があります。

 「2030年に総発電量の21%以上」という日本の再生エネ導入目標は、たとえ達成したとしても欧州の先進的な国より約20年遅れています。志が低いと言わざるを得ません。欧州では導入目標の前倒し達成や上方修正が、この10年間に繰り返されてきました。

 再生エネを送電網に受け入れられる限度を示す接続可能量という概念については、技術的な上限はないというのが欧米の電力関係者の見解です。しかも日本の電力会社の接続可能量の数値は、出力抑制や既存連系線の利用拡大などをあまり考慮しない従来のやり方で計算したものです。

 今回、電力会社だけでなく経済産業省の系統ワーキンググループが接続可能量を増やせるかどうかを検討します。それはよいことですが、保守的で志の低い数値に設定されると技術革新や制度変更への意欲がしぼんでしまう懸念があります。

 (聞き手・撮影 編集委員・石井徹)

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 やすだよう 67年生まれ。03年からシステム理工学部准教授。著書に「日本の知らない風力発電の実力」、翻訳書に「風力発電導入のための電力系統工学」など。

 ■競争原理を働かせ自立に導け 朝野賢司さん(電力中央研究所主任研究員)

 もっと安く再生エネの導入を増やす道はあります。いまの制度のままでは、コスト競争力は高まらず、再生エネは自立できない電源になってしまいます。FITは、大幅に見直すべきです。

 今回の接続保留は、太陽光の申請が増えすぎたからです。太陽光パネルの値段は世界で同程度なのに、日本の買い取り価格は欧州の2~3倍で、高すぎます。導入コストの根拠が不透明なまま、事業者側の言い値を反映しており、国はきちんと査定できていません。

 国の制度設計の失敗で、いまの状況は「認定三重苦」と言うべき事態です。FITでは、発電事業者はまず国から事業計画の認定を受け、その後、電力会社と契約を結び、発電所の運転を始めます。いまは書類審査で比較的簡単に認定されています。

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 <制度設計の失敗> 第一の苦しみは、国の認定と運転開始との時間のズレです。国が認定した発電設備の出力は7月末までで、7221万キロワットでしたが、これまでに実際に発電を始めたのはそのうちの16%です。

 認定ばかりが増えて運転が始まらないのは、買い取り価格は認定時点が適用されるのに、買い取り期間は運転開始から始まるからです。太陽光の価格は、パネルの値下がりなどで毎年度引き下げられていますが、その引き下げ前に認定を受け、導入コストが安くなるまで運転を遅らせる悪質な事業者もいます。工事能力の限界から、運転開始が認定の数年先になる場合も多いです。ドイツでは運転開始時の価格が適用されています。

 第二は、発電コストが安い再生エネが広がっていないことです。国が認定した再生エネの96%が太陽光。1キロワット時あたりの買い取り価格は、事業用の太陽光が32円に対し、風力は22円、大規模な地熱は26円です。割安な風力には環境アセスメントなど手間がかかり、地熱は温泉事業者への配慮が欠かせない。割高ではあるがこうした制限がない太陽光ばかりが増えてしまいました。

 第三は著しい地域偏在です。九州では、国の認定した事業計画の発電能力が、電気の使用が少ない時期の昼間の最少需要の2倍を超えてしまっています。送電網の容量を考慮することなく国が認定を出したためで、接続を保留せざるをえない事態にあります。

 「認定三重苦」によるコストの負担者は電気を利用する国民です。認定した事業計画がすべて運転を始めると、発電電力ベースで再生エネは10・7%から19・8%に増えますが、利用者が負担する賦課金の累計額は約50兆円。一般家庭の年間負担額は、いまの4倍の1万1220円になります。

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 <入札制の検討を> もっと効率的な再生エネの導入が本当はできます。日本は、導入が進んだ欧州を参考にしますが、FITについては反省点も多い。ドイツ、フランス、英国、スペイン、いずれの国も太陽光が入りすぎないように買い取り量に上限を設けています。最近は市場をゆがめないために、入札制度など競争原理を取り入れるのが主流です。

 日本も、入札制度に切り替えるべきです。中長期の再生エネの導入量の目標を定め、必要な量で募集し、安く発電できる業者の事業から順々に認定していく制度です。たとえば、「太陽光は年間200万キロワットまで」とするなど、電源や年度別に目標を設定するのもありでしょう。

 一方、電力会社間の電力融通も技術的課題です。余った再生エネを隣の会社に送電することは、実証実験中です。今後、変動の大きい再生エネを優先するべきかなどが論点になるでしょう。また、送電網など系統増強費用は、7兆~21兆円との試算もあります。負担が過大となれば、再生エネへの国民の期待もしぼみかねません。

 環境に優しい再生エネは石炭や原子力と比べいまは割高です。自立した電源に育つまで、みんなで賦課金を出して買い支えるのが、FITの本来の目的のはずです。

 今回の事態は、「最大限導入」のかけ声のもと、無理をしすぎた結果ではないでしょうか。少ない費用で多く入れるという競争原理を少しでも働かせるための契機とするべきです。そのことが、再生エネの自立にもつながります。

 (聞き手・撮影 西尾邦明)

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 あさのけんじ 74年生まれ。博士(地球環境学)。専門は再生可能エネルギー環境経済学。著書に「再生可能エネルギー政策論 買取制度の落とし穴」など。