アメーバ経営 ひとりひとりの社員が主役/稲盛 和夫

京セラ、およびKDDIの前身である第二電電を創業した著者が実践する経営哲学「アメーバ経営」を公開。「アメーバ経営」とは、世間でもてはやされているような経営ノウハウではなく、経営哲学をベースにした経営管理システムである。

アメーバ経営の目的は、経営の本質である「売上を最大に、経費を最初にする」というシンプルな原理原則に従うために、下記を実現することである。

�市場に直結した部門間採算制度の確立
会社全体を小さなユニットオペレーションに分割し、そのユニット(アメーバ)がお互いにサービスを社内売買するようにすることで、それぞれの小集団をプロフィットセンターとして付加価値を極大化することで、会社全体の利益を増大させる。市場価格の変動をアメーバ間の売買価格に反映することで、市場のダイナミズムをダイレクトにかつタイムリーに伝えられ、品質においても社内売買ごとに「品質の関所」が設けられることになる。

�経営者意識を持つ人材の育成
各アメーバの経営をアメーバリーダーに任せることで、経営者意識を持った人材を育成していく。また、各リーダーが、特別な会計の知識がなくても採算が誰でもわかるような仕組みとして「時間当り採算表」を採用している。

�全員参加経営の実現
会社の情報をガラス張りにすることで全員が経営者意識を持てる土壌を作り、生きがいや達成感を感じながら自主的に働ける環境を実現する。

上記を実現するためには、会社をどのようにアメーバに切り分けていくかという問題とともに、各リーダーがアメーバ個々のエゴを抑えて全体最適を考えられるように、公平、公正、正義、勇気、誠実、忍耐、努力、博愛といったプリミティブな価値観を持った高い人格と人間性を備えることが必要である。

【評価】
★★☆☆☆

【感想】
内容としては目新しさはなく、この本に対する評価の良否は分かれるところだと思うが、理解していることと実現出来ることは違うという意味で、その言葉には重みがあると思う。

私の勤める会社も、組織をビジネスユニット化して社員ひとりひとりに経営者意識を持つことを期待しているようだが、実際は権限委譲されていないし、経営状況は開示されていないし、まるで手足を縛られたまま戦場の最前線に送り出されているような不満を感じる。また、各部門はコストセンターとして管理されているので、モチベーションも上がり難い古い体質のままだ。その中でも業績を上げられるのは、先輩達の自己犠牲をいとわない高い人格に依存しているからだと思っている。

また、成果主義についての考察にも一日の長がある。成果主義では、成果が上がれば報酬が増えるので、短期的には社員のモチベーションも上がって効果的であるが、業績の上がりにくい部門に配属されたり、業績が右肩下がりになって報酬が減り始めると、社員の不満、恨み、妬みによる人心の荒廃を招くことになる。特に日本人は同質的な民族であるので、短期では極端な差を付けず、長期にわたり実績を上げた人を評価して処遇するような体系とするのは、「家族的経営」を標榜する京セラの真骨頂か。

【お気に入り】
なし

【目次】
第1章 ひとりひとりの社員が主役
 1 アメーバ経営の誕生
 2 市場に直結した部門別採算制度の確立
 3 経営者意識を持つ人材の育成
 4 全員参加経営の実現
第2章 経営には哲学が欠かせない
 1 事業として成り立つ単位まで細分化
 2 アメーバ間の値決め
 3 リーダーには経営哲学が必要
第3章 アメーバの組織づくり
 1 小集団に分け、機能を明確に
 2 市場に対応した柔軟な組織
 3 アメーバ経営を支える経営管理部門
第4章 現場が主役の採算管理
 1 全従業員の採算意識を高めるために
 2 「時間当たり採算表」から創意工夫が生まれる
 3 京セラ会計原則の実践
 4 実績管理のポイント
 5 収入のとらえ方
 6 経費のとらえ方
 7 時間のとらえ方
第5章 燃える集団をつくる
 1 自らの意思で採算をつくる
 2 アメーバ経営を支える経営哲学
 3 リーダーを育てる