原発を考える(その4)~エネルギー政策「原発ゼロ」からの転換

【出典】朝日新聞 2013年12月7日版

我々人類は、フクイチから何を学び、何を反省したのか。

この世に「絶対安全」はない。それなのにもう「想定外」は許されない。「安全」とは維持し続けるよう絶えず努力しなければ達成出来ない不安定な状態なのだ。それと経済効果を天秤にかけようとすると、「安全」を経済の言葉で換算する必要があるが、その係数が小さすぎる、というよりバイアスが掛かり過ぎていると思う。原発が本当に「安全」なのかどうか、我々一般市民には隠蔽され、改竄され、それでも選択しろというのは脅迫だ。政府が原発推進するなら、(嫌味な言い方だが)国民に海外移住の権利を保証してもらわないと割に合わない。

原発ゼロから転換鮮明 エネルギー計画、経産省が原案

経済産業省は6日、「エネルギー基本計画」の原案を示した。原子力発電を「重要なベース電源」として民主党政権が掲げた「原発ゼロ」からの転換を明確に打ち出した。一方で、将来の原発比率や新増設を明記することは見送った。エネルギー政策の根幹部分をあいまいにしたまま、原発の再稼働に向けた「地ならし」が着々と進んでいる。

■重要電源と明記、新増設は盛らず

基本計画はエネルギー政策の中長期的な方向を示すもので、ほぼ3年に1回見直す。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(会長・三村明夫新日鉄住金相談役)に原案を出した。月内に分科会案をまとめ、来年1月に閣議決定する。

原案では、原発について、エネルギーの安定供給や発電コスト、温暖化対策などの面から「重要なベース電源」とし、需要の動きにかかわらず一定の電力供給を担うものと位置づけた。「必要とされる規模を十分に見極め、その規模を確保する」と、積極的に活用する姿勢を示した。

いまは全原発が止まっているが、原子力規制委員会の審査を経て「安全性が確認された原発は再稼働を進める」ことも明記した。

原発に頼る比率は可能な限り引き下げていく考えも示したが、具体的にどこまで下げるのかの数字は示さなかった。規制委が審査中の原発14基を含め、どれだけの原発が再稼働できるか見通せないためだという。

原発の新増設や建て替え(リプレース)を認めるのかどうかも、明記を見送った。福島第一原発の汚染水問題が収束しないなか「原発推進」の姿勢を鮮明にしすぎれば、世論の批判を招きかねない事情がある。太陽光や風力など<再生可能エネルギーの「最大限の加速」も掲げたが、高コストの問題も併せて指摘し、全体として原発の「必要性」を色濃く示す内容だ。使用済み核燃料から取り出したプルトニウム核燃料サイクル」は、続ける考えを明確にした。青森県六ケ所村の再処理工場について民主党政権はあいまいな姿勢だったが、「引き続き着実に推進」と明記した。

使用済み核燃料から出る「高レベル放射性廃棄物」の最終処分地が見つからない問題は、小泉純一郎元首相が「原発即ゼロ」の最大の理由にしている。このため、自治体の立候補を待つやり方を改め、国が科学的な適地を示して選定を進める方針を盛り込んだ。

民主党政権は2010年につくった今の計画で、30年までに原発割合を約5割にするとし、東日本大震災後は「30年代の原発ゼロ」を掲げた。政権交代後の今年3月から、計画見直しを進めていた。

■代替電源の確保、戦略遅れる懸念

経産省の試算では、いまある原発が40年で運転を終えると、2028年には発電能力が現在の半分に減り、49年にはゼロになるとされる。だが、将来の比率を示さない新計画では、どれだけの代替電源が必要になるのかが分からない。

このままでは、温室効果ガスの新たな削減目標を定めることもできず、関連の政策も打ち出しづらい。電力に限れば、火力依存が続くとガス排出量は高止まりするという側面がある。電力会社なども、火力発電や再生エネルギーなどにどれだけ投資すべきか、戦略を立てるのが難しい。

分科会では、委員から「例えば原子力25%、石炭25%、天然ガス25%、その他をあわせて25%」(山名元・京都大教授)、「少なくとも15%くらいに原発依存度を減らす」(橘川武郎・一橋大大学院教授)などの意見が相次いだ。

茂木敏充経産相もこうした声を無視できず、6日の記者会見では将来の電源構成について、「最終的に責任ある需給体制をつくる」と強調。「3年以内に目標を設定し、できるだけ前倒ししたい」と述べた。

分科会の委員は政権交代で大幅に入れ替わり、明確な「原発ゼロ」は15人中2人。原発活用を進めたい政権の意向に沿った議論になるのは目に見えていた。

ただ、原発への世論の風当たりは強く、経産省幹部は「新増設を今盛り込むのは現実的でない」。まずは電力業界などが求める「原発の必要性」を強調し、再稼働が進んで世論の反発が小さくなるのを見計らったうえで、新増設などの方針をはっきりさせる。そんな思惑が透ける。