エルビーダは蘇った~異色の経営者 坂本幸雄の挑戦/松浦晋也

坂本幸雄。たまたま見ていたNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演されていた時、只者ではないオーラを出していたのを覚えていて、彼を知る資料がないか探して本書を手にした。

日本電気(NEC)と日立製作所のDRAM事業を集約して設立されたエルピーメモリ(株)の「再建請負人」として降り立った坂本は、日本体育大学出身の異色の経歴を持つ経営者だ。巨額の赤字を垂れ流していた会社を一年で黒字転換したその手腕に、経済再生・日本復権の秘訣が垣間見える。

【評価】
★☆☆☆☆

【感想】
本としては、淡々と事実を追うだけで現場の混乱とか息遣いとか黒字転換する際のダイナミックスが伝わらず、「坂本幸雄」の輪郭をなぞって単に切り抜いただけで、その凄味とか人間性が浮かび上がっていないと思う。

唯一注目すべきは、インタビューを受ける坂本自身の飾らない言葉の力にあるだろう。まるで日本刀の鋭い切れ味のような、飾らない、本質のみを見越した「言霊」に触れると、「日本にも骨太の人材がまだいるんだ」との安心感を覚えた。

【お気に入り】
―逆に仕事のできない人の特徴は何かありますか。
「総論を言う人が多いです。『品質、納期、コストのすべてを世界一にする』とか。どこの工場にいってもどこの企業にいってもこういうことを言う人がいる。そういう人に限って『それを実現できるのか』と聞くと『さあ』と曖昧な答えを返してきます。『自分のところと世界中のライバルのコストを把握しているか』と問えば、大体把握していません。自分のところのコストとライバルのコストを知らずに『世界一のコスト』などと言うべきではないのです。こういう人はまず間違いなく仕事ができません」(p.40-41)

バイタル・フュー?
「重要なことは少ないということです。本当に重要なことは一つか二つしかない。問題が起きた時はいくつもの原因が見つかるけれども、本当に重要な原因を解決してやれば、残る原因は自ずと解決するんですよ。僕は常に、技術であれ営業であれ経営であれ、バイタル・フューだと考えています。僕は、『コストはこうでなければいけない、歩留まりの目標はこれだ』とかあれこれ社員に言うけれども、各社員がフリーハンドで動けるようにしておかないと僕の言うことは実現しないですよ」(p.42-43)

―投資の指針の意味は痛い何ですか?
「まず、マーケットシェアが投資額に比例するということは、シェアの低いエルピーダは、できる投資が限られるということです。となると投資を効率化するしかない。そのためには、不況時に投資するしかないということですよ」(p.108)

―これは何ですか。
「会社の盛衰図と言えばいいかな。同じ時にメモにはこんなことを書いた。
会社は
 夢で始まり
 情熱で成長し
 責任感で維持され
 官僚化で衰退する
とね」(p.193-194)

【目次】
はじめに/第1章 社長就任と新施策/第2章 石はいかにしてコメをなったのか/第3章 エルピーダ・ウェイ/第4章 球児は挫折を経て経営者になった/第5章 日本の枠を超えた企業再生請負人