愚直に実行せよ!人と組織を動かすリーダー論/中谷 巌

日本社会の持つ特質を踏まえながら、優れた「日本型」ビジネスリーダーとなるための4つの資質を、具体的事例を織り交ぜて解説する。

1.高い「志」を持っていること
自信に満ちたリーダーとなるためには、高い志を持って歴史、道徳、倫理などの深い教養を身に着けなければならない。少なくとも外国人に「日本」について語れるだけの教養がなければ、魅力のない退屈な人間と見られる。

2.「志」を具現化するための明確なビジョンを持ち、それを明確に説明する力があること
暗黙知の領域とされる「直感」を概念化し、それを他人に伝えて感動させる力が無ければならない。

3.変革実現に向けて愚直に実行する粘りがあること
頻繁に現場に足を運んで「あの人のためなら一肌脱ごう」と思わせ、日本の強みである「現場の当事者意識の高さ」を活かして現場の力を終結させることが出来なければ、変革は実現せず企業のDNAとはならない。

4.リーダーが理想実現のために「身をもって示す」こと
リーダーが強い意志(コミットメント)を示し、本気であることを全員に伝える必要がある。また、その大義のためなら自己犠牲もいとわない気構えで物事に望まなければならない。

しかし日本は、これまで欧米へ追いつき追い越せが明確な目標であった時代から、社会構造が抜本的に見直される新しい世界へのパラダイムシフトが起こる時期にさしかかってきた。この現代では、これまでの調整型リーダーではなく、トップダウン型のリーダーシップの方が効率がよい。この問題をどのように乗り切っていくのか、答えのない模索が始まっているが、最後の最後に効いてくるのは「愚直な実行力」であろう。

【評価】
★★☆☆☆

【感想】
「入門マクロ経済学」「痛快!経済学」でお馴染みの著者が、多摩大学で「四十歳代CEO養成講座」の塾長としての経験を含めて「PHPビジネスレビュー」の連載に加筆・修正を加えたリーダーシップ論。

筆者が主張するリーダー論より、下記の視点が興味深く勉強になった。

・日本社会は「中空構造」(中心に立つものが無為の存在であり、まわりの意見を聞いてバランスを意識したコンセンサス型の意思決定を重視)という特徴があり、これが時代に相まって社会の効率性・安定性を高めることに貢献した。そのため、強力な自己主張を持つ西洋型の英雄的リーダーは日の目を見なかった。

・日本人は外国の新たな考えや制度、知識などをうまく選択・吸収し、やがて時間をかけて同化するという「日本化プロセス」を得意としてきた。外来の仏教と伝統的な神道信仰を融合させた神仏共存体制や、米国の技術を吸収して独自のイノベーションを起こすことで圧倒的な競争力を誇っている自動車産業も「日本化プロセス」の好例とみる。世界第二位の経済大国になれた日本人の「日本化能力」が、二十一世紀も発揮されるかが日本の将来を決める。

また、日本の特質を突き詰めると、結局「わび」「さび」に行き着いたところが、ベストセラーの『国家の品格』に通じるところがあり、これが日本文化の真髄なのかもしれない。しかし、それがわかる大人が、貴方の周りに居てますか?

一方で、「身をもって示す」ことの究極が「自己犠牲」であるとして「生け贄」をその例として持ち出す部分は、少し眉唾物。全体の構成から見ると、この部分は無くてもよいと思うのだが残念。

【お気に入り】
なし

【目次】
第1章 日本型リーダーシップ
 1 すぐれたリーダーになるための四つの資質
 2 日本における「中空構造」とリーダーシップ
 3 「日本型」リーダーシップとは?
第2章 「志」を高く持つ
 1 「自信に満ちた志のあるリーダー」になるために
 2 リーダーたるもの、すべからく「教養」を身につけよ
 3 リーダーの「質」を決めるのは、深い「人間理解」である
第3章 「説明能力」と「大局観」
 1 「直感」を「概念化」する力
 2 日本という国の文明論的「位置」を意識せよ
第4章 「愚直な実行力」を持て
 1 「実行力」こそ勝敗を決めるキーワードだ
 2 「謙虚で地味」なリーダーこそ、長期的繁栄に必要だ
第5章 リーダーたる者、時には「狐」になれ
 1 リーダーたる者、「聖人君子」でなければならないか
 2 小泉流リーダーシップの中身
 3 「正しいこと」と「正しいこと」の間の選択
第6章 日本のリーダーが直面している課題
 1 「資本の論理」と「組織の論理」の緊張関係
 2 日本企業は「弱い本社」問題を克服できるか
第7章 リーダーは「身をもって示す」
 1 自分の息子を「生け贄」にできますか?
 2 リーダーシップとは「身をもって示すこと」
あとがき